Interview with Kotona Yamashita

Photography by Kentaro Yamada
Words by Mako Ayabe

2019月9月20日

バーを経営していた村上春樹は、カウンター越しにお客さんの会話に耳を傾け、小説のアイデアを構想したと言われている。学生時代バーでアルバイトをしていた山下琴菜は、お客さんの装いや表情を観察し「やりたいことをやっている大人の人はお酒をおいしく飲んでいて、キラキラしている」と気づいた。そして(就職が内定していた企業ではなく)自分が好きなファッションの道へ進むことを決意した。

Need Supply Co.(以下、NS):文化服装学院のパターン・コースと“ここのがっこう”を卒業して、ブランドを設立した当初のことをお聞きしたいです。

山下琴菜(以下、琴菜):アパレル会社に就職したことがなかったので、それこそ納品の仕方もわからなくて。ゼロに近いところから始めたんです。でも在学中にインターンを経験したのですが、その時にブランドのデザイナーの“譲れないポイント”の大切さについて理解することができました。それで「私もやってみよう」と思いました。ブランドのコンセプトは〇〇です、という風に大々的に考えるのではなくて、私の場合はとてもゆるくて「とりあえずやってみよう」から始まったんです(笑)

NS:当時、大変だったことはありますか?

琴菜:やり始めてから、実はブランドを作るとはとても大変なことだと自覚しました。「あ、これは結構本気じゃないとやっていけないな」と。でもやればやるほど本気になれるところがありました。さらに私の場合は、何でも用意周到に計画を立てるのではなくて「これがダメだったら、こっちでやってみよう」という感じで、自分ができないことではなく、できることを中心にやるというスタンスにしています。
 他にも縫製の工場などについてもわからなかったので、調べたり電話をしたりして、ひとつひとつが冒険でした。おそらくアパレル企業に勤めていたら、仕事を通じて学べることなんでしょうけれど、私の場合はひとりで始めたので。でも楽しかったです。私は失敗もいっぱいするんですけれど、立ち直りもめっちゃ早いんです(笑)。「人よりも経験いっぱいするぞ」という強い意気込みがあるんです。

NS:KOTONAとは、どのようなコンセプトのもとに生まれたブランドなのでしょう?

琴菜:ファッションって人に優しいなって常々思うんです。たとえば、さまざまな体型に合った服を提案していたり。着る人に寄り添っているというか。シワにならない楽ちんな服とか、前衛的な服など、様々な人のニーズに合わせて提案をしている。それで私の場合は何かな? と考えたときに思いついたのが「だらしない人への提案」だったんです。だらしない人がどうしたら服でテンションが上げられるのか、というのを考えています。日本人は特に常にきちんとするべきだと考える国民性がありますが、そんな中で私の服は「だらしなさの肯定」をしているんです。

NS:だらしなさの肯定…あまり聞いたことがないですよね(笑)

琴菜:ちょっと伝わりにくいかもしれませんね。たとえば、私はジャケットというアイテムを作るのが好きなのですが、ジャケットを一枚羽織ると、だらしない自分を隠すことができます。夏の暑い日にカジュアルなTシャツだけだと、素敵なご飯屋さんに入るのを躊躇しますよね。でも、そのTシャツの上に素敵なジャケットを羽織るだけで、だらしない格好から一気に様変わりする。アップデートできる、という意味です。

NS:なるほど。ものぐさな人が一瞬でおしゃれになれるような服という意味ですね。素敵なコンセプトです。ちなみに各シーズンにテーマは設けていますか?

琴菜:これまでもクロアチアまでネットで知った気になるオブジェを見に行ったり、興味のあるアーティストの美術館へ行ったり、アリゾナの赤土が見たくてアメリカまで行ったりして、その体験を服作りに活かしてきました。SS20は、事務所を同じビル内の別のフロアへ引っ越したので、改めてこのビルの良さを考えたりなど、身近な興味に対する素直な気持ちを(服に)表しています。こういったインスピレーションの源はあるのですが、はっきりとしたテーマを設けることはしていないんです。

NS:この色を使おう、この素材にしよう、というのはどう決めたのですか?

琴菜:AW19は北海道にあるイサム・ノグチのモエレ沼公園から影響を受けているものもあります。グリーンは、あそこにある遊具の黄緑色の色からイメージしていますし、ピンクは小樽でいっぱい食べた寿司のサーモンの色だったり(笑)。

NS:話しは少し代わりますが、琴菜さんは他のインタビューで「自分の慾に素直に生きる」と話していましたよね。

琴菜:ええ。でも私の母のほうがそういう意味ではすごいんです。一日に何度も服を着替え、さらに私よりも収集癖が強い人で。最近では、平家物語の貝合せを購入していました。ずっと欲しかったそうなんです。母は興味があるものは「欲しい!」強く思うタイプです。でもそういう強い慾望って、最近の時代では減ってきているので、私は良いと思っています。母こそが私自身の「素」になっているのだと思いますね。

NS:お母様以外で、琴菜さんが影響を受けたアーティストなどはいますか?

琴菜:ラフ・シモンズ、ミウッチャ・プラダ、フィービー・ファイロが大好きです。私の世代の人に共通しているかもしれませんが。この3人はいずれも「何かを提案する」というチャレンジをきちんとしているデザイナーです。

NS:他に美術家などは?

琴菜:三鷹天命反転住宅などの建築作品を手がけた荒川修作さんなど、人間に刺激を与えられるような人が大好きですね。あとは哲学者の國分功一郎さん。この方は『暇と退屈の倫理学』という本を出していて“高等遊民”などという言葉をよく使っています。“高等遊民”を現代に受け入れるような方法を説いていて、なんとなく私のブランドとフィットしているな、と感じました。アレクサンダー・カルダーもとても好きです。

NS:こういったアートや思想に触れることでインスピレーションが生まれるのでしょうか? つまり、デザインが生まれる瞬間についてお聞きしたいのです。

琴菜:デザインをする時は、まずその時点で興味のあることをリサーチします。その方法のひとつとして、代官山蔦屋書店の写真集コーナーへ行きます。通っているうちに親しくなった、コンシェルジュの加藤さんのおすすめを教えてもらったりするんです(笑)。たとえば旧ユーゴスラビア各地にある、スポメニックという戦争慰霊碑の写真集だったり。実物を見るためにクロアチアまでひとりで行きました。

NS:そうなんですか! いかがでしたか?

琴菜:なんにもない山奥にある無人駅を降りて、ひたすら一本道を歩いたんです。でも距離として3時間は歩かないとたどり着かないので、途中でヒッチハイクをしました。しかも3回もヒッチハイクを乗り継いで、やっと到着しました。

NS:海外でヒッチハイクとはすごい度胸ですね。さすがです。

琴菜:スポメニックはとにかく巨大でした! オブジェとしても素晴らしいです。このような慰霊碑が建てられた理由をリサーチしたりする時間も、私にとっては至福のときなんです。

NS:度胸も素晴らしいですが、フットワークが非常に軽いですよね。

琴菜:そうですね。それはあるかもしれません。でも実は旅行はひとりで行きますが、普段の生活ではひとりで外食するのも苦手なんです・・・。

NS:その辺りのバランスが面白いですね。琴菜さんの独特な感覚が、KOTONAの世界に反映しているのは確かだと思います。

琴菜:私のブランドってマイナーな方へ向かっていると思うんです。ファッションの本来の目的は、多くの人に着てもらうことです。でも、どちらかというと私の場合は、対象をどんどん狭めているんです。でもそうすることで、音楽のような“インディーズ感”を大切にしているのかなと最近は感じています。私が興味を持つ対象も、流行やメジャーなものではなくて、マイナーな方向へ進んでいることは確実です。

NS:実際に、服をデザインするときに「こういう人に着てほしい」という対象を描いているのですか?

琴菜:こんな人、というよりは人の仕草を思い浮かべたりします。たとえばだらしない仕草だったり(笑)。人の行動を観察することが多いですかね。あと、非常に面白いことに、私の服を着てくださるお客さんは、不思議な方が多いんです。ファッション好きというよりも、自分のスタイルがしっかりしている女性で、タイプはみんなバラバラ。ブランドによっては、お客さんのタイプの傾向がありますよね? でも私の場合は、だらしない人に向けているので、誰にでもフィットするんだなって思っています。どんな人でもだらしない面ってありますからね。
 


  

山下琴菜。1987年宮崎県生まれ。
2015年ウィメンズブランド”KOTONA”をスタート。
www.kotona

 


 
9月21日(土)から29(日)の期間中、Need Supply Co.東京店でPOP UP EVENTの開催が決定。
KOTONAが得意とするジャケット、コート、さらにアクセサリーと幅広いラインナップ。
会期中は、「私の棚」というテーマのもと、琴菜氏が普段から趣味で集めている花瓶やオブジェなど棚に置いてそうな「無駄なもの」も展開致します。

初日の21日(土)18:00〜20:00頃まで琴菜氏が在店。
ご来店くださったお客様には先着で彼女から「特別なお裾分け」があるかもしれません…。
この特別な機会に、ぜひ当店へお越しください。
皆様のご来店を心よりお待ちしております。

Tokyo
東京都渋谷区松濤1-26-21
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