ウェス・アンダーソンの20年

2016月2月28日

ウェス・アンダーソン監督がデビュー作を発表してから20年の月日が流れた。彼の初監督映画である『アンソニーのハッピー・モーテル』(原題:Bottle Rocket)は1996221日に公開され、興行収入的には失敗に終わった。それでも、映画評論家たちは、テキサス出身の3人の若い犯罪者のコニカルな素朴さを絶賛した。この映画のおかげでアンダーソンは映画監督としてキャリアを築く第一歩となり、監督の風変わりなビジュアルスタイルが多くのクラフト作家たちを影響したことはEtsyを見ると目瞭然。しかし、彼がずっと愛される理由は、観るものが登場するキャラクターたちに感情移入できるからだろう。彼のデビュー20周年を祝し、デビュー作に強烈なインパクト受けたという私たちが大好きなビデオレンタル店(そう、また営業しているのだ!)“Video Fan”の店長であるアンドリュー・ブロッサムに当作品に関する見解を伺った。

『アンソニーのハッピー・モーテル』を初めて観たときのことをよく覚えているよ。多分高校2年生だったのかな、ちょっとその辺の記憶は曖昧だけれど、リリース年と一致しているからきっとそうだったんだね。その当時、僕はワシントン・ポスト紙の週末情報に掲載されている映画批評欄を隅から隅まで読んでいて、映画の知識はここで得たんだ。レビューを読んで、興味のある映画を観に行ったり、ビデオで借りたりしていたんだ。

ワシントン・ポスト紙の『アンソニーのハッピー・モーテル』のレビューは結構良かったと思う。だけれど、レビューなんて関係なかったよ。映画のあらすじを読んだだけで、これは僕のための映画だ、とすぐに思ったんだ。3人の男たちがめちゃめちゃなことを繰り返しながら、罪をおかそうとするが失敗ばかりする、という設定。でも、結局映画館には観に行かなかった。2月だったということと、まだ高校生だったことが理由かな。ワシントンDCで1館だけ上映している映画館があったんだけれど、僕は行けなかったから、何ヶ月も待ってやっとビデオが出た時は観る準備が万全に整っていたよ。

ビデオ屋で働いていたから、アメリカの自主映画監督は大好きだった。ハル・ハートリー、リチャード・リンクレイター、デビッド・リンチ、ジム・ジャームッシュ、コーエン兄弟など。こういった監督の影響で『アンソニーのハッピー・モーテル』に興味を持ったのだと思うよ。この作品は、今まで観た僕の好きな映画と、なんとなく同じような感じがしたんだけれど、『アンソニーのハッピー・モーテル』は全体的に独創的で、完全にユニークな表現方法だと思ったんだ。それに脚本も冴えていて素晴らしかったしね。初めて観たとき、冒頭のシーンから面白くて、驚嘆すら覚えたよ。アンソニーが病院をディグナンのために“脱走”したり、ディグナンの50年計画、アンソニーの妹が兄に説教するシーンなどね。ディグナンがアンソニーを見送って、ローリング・ストーンの“2000 Man”がバックに流れる中、冷蔵倉庫へ戻る場面の頃には、もうこの映画に夢中だったよ。それまで観た大好きだった映画をすべて押しのけて、僕の中のNo.1の映画になったからね。

2作目の『天才マックスの世界』(原題:Rushmore)が出来るまでの2年間、会う人会う人に僕は『アンソニーのハッピー・モーテル』を観ることをずっと勧めていた。でも、『天才マックスの世界』が出た後は、誰にも説得する必要がなくなったよ。

大学に進学したときは、『アンソニーのハッピー・モーテル』のアンソニー、ディグナン、ボブが畑で銃を撃っているポスターを部屋に貼っていたよ。この映画が好きな人とは誰でも友だちになれたよ。ある女の子がオーウェン・ウィルソンの歯が大嫌いだから、映画も楽しめなかったと言ったんだ。その人との友情関係は長続きしなかったね。大学時代は映画の上映会をしていたことがあったんだ。35ミリにこだわってね。上映中に友人たちと映画に合わせてセリフを言うことがたまにあったよ。特に、クマール・パラーナが出てくるシーンではね。

「台無しにしちまったよ」「なんでだろう。腕が鈍ったよ」

 

「あいつは誰だい?」

 

「アップルジャックだよ。しっかりしろよ!」

今でも数年に一度は『アンソニーのハッピー・モーテル』を観ている。こんなに面白いんだから本当は毎年観るべきじゃないかと思っているよ。ビデオレンタル店にいることが多いから最近気がついたんだけれど、この映画って1990年代のインデペンデント映画を代表するだけではなくて、1970年代から始まったテキサス映画の流れも継いでいるということ。すごく賢くて、少し変で、面白おかしくて、ちょっと緊張感があって、少し悲しいという共通点があると思うんだ。たとえば、『ラスト・ショー』がいい例だよね。それにコーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』、トビー・フーパーの『悪魔のいけにえ2』、ビル・フォーサイスの『ローカル・ヒーロー』(ヒューストンの場面だけかもしれないけれど)、デイヴィッド・バーンの『トゥルー・ストーリーズ』、リンクレイターの『Slacker』や『バッド・チューニング』は全部テキサスの映画なんだ。そして、忘れてはならないのがウェス・アンダーソンの『アンソニーのハッピー・モーテル』。テキサスに行く度に、これらの映画のことを思い出すよ。ダラスとフォート・ワースに行けは、『アンソニーのハッピー・モーテル』のことを100%考えるしね。

クイーンズのJackson Dinerで一度クマール・パラーナの後ろに並んだことがある。ドーサを注文して待っていたんだ。これはまだ携帯にカメラが搭載されていない時代だったから、もちろん僕もカメラを持っていなかった。もしかして携帯電話さえも持っていなかったかもしれない。僕は彼に気づいていたけれど、別に話しかけなかった。ちょうど『ザ・ロイヤル・テネンバウムス』が上映された頃で、彼に気づいたふたりの女の子が一緒に写真を撮ってもらっていたんだ。一瞬クマールが僕を見て微笑んだから、僕もスマイルしたよ。たったそれだけさ。でも多分その年で1番嬉しい出来事だったよ。クマール、最高だよね!

アンドリュー・ブロッサムは『Makeout Creek』の創刊者兼編集者、『I’ve Got a Message for You and You’re Not Going to Like It』の著者、そして『Richmond Noir』の共編者。ヴァージニア州リッチモンドのビデオレンタル店、Video Fanで働いている。

イラストレーションはマーク・ディンゴ・フランシスコのポストカードセットより。